通常、血液中のブドウ糖は、インスリン(膵臓から分泌されるホルモンの一種で、血液中の糖分を組織に取り込ませ、血糖値を下げる働きをしている)の作用によって細胞に取り込まれてエネルギー源になったり、あるいは脂肪やグリコーゲンという物質に変換されて肝臓や筋肉に蓄えられたりします。
しかし、糖尿病になると血液中のブドウ糖が細胞にうまく取り込めなくなり、血液中にブドウ糖がだぶついてしまったような状態になります。
長期にわたり血液中のブドウ糖の過剰な状態が続くと、全身の血管に様々な障害が現れ、糖尿病による合併症、すなわち糖尿病細小血管合併症を引き起こしてきます。
糖尿病網膜症もそうした合併症の一つで、血液中のブドウ糖の過剰な状態が続くことによって網膜の血管が損傷を受け、血管が詰まったり、変形したり、出血を起こすようになったりした状態です。
糖尿病網膜症が出てくるには、糖尿病になってから数年~10年程度の時間を要します。
糖尿病になったからと言って、すぐに目に異常が生じるわけではなく、しっかりと血糖をコントロールしていれば、糖尿病網膜症を予防することは十分に可能です。
そして、重度の糖尿病網膜症になって失明したり、失明の危険が迫ったりといった事態を避けるには、糖尿病の患者様は定期的に眼科を受診し、検査を受け続けることが大切です。
問診・視診後に、下表のような検査を行うのが一般的です。
他の目の疾患と同様に、視力検査はやはり重要な検査です。特に矯正視力は診断において重要で、矯正視力が1.0以上出ないようなら何らかの異常があると推測します。
目の奥に光を当てて網膜を直接観察し、網膜やその血管の状態を調べます。散瞳(点眼により瞳孔を大きくすること)のうえ検査をすると、微細な出血も把握できます。
腕の静脈から蛍光色素の入った造影剤を注入しながら眼底カメラで目の奥の血管を観察し、血管の形状や血液の流れ、網膜の血管からの血液成分のもれなどを調べます。
眼底に弱い赤外線を当て、反射してきた波を解析して、層構造をした網膜の断層像を描き出し、網膜やその下の新生血管などの状態を立体的に把握します。
糖尿病網膜症の病期は、その進み具合によって大きく3段階に分けられ(単純・増殖前・増殖)、治療法もこの病期に応じてそれぞれ変化してきます。
また、視力低下を招く「糖尿病黄斑浮腫」(網膜中央にあって物を見るのにとても大事な場所である黄斑がむくみを来たした状態)は、これら全ての病期で起こり得ます。
最初に現れる異常は、細い血管壁が盛り上がって生じる血管瘤や、小さな出血です。
たんぱく質や脂肪が血管から漏れ出て網膜にしみをつくったりもしますが、血糖コントロールが良くなれば改善することもあります。
自覚症状はほとんどみられません。
単純糖尿病網膜症よりも、さらに一歩進んだ病態です。細い網膜血管が広い範囲にわたって閉塞すると、網膜に十分な酸素が行き渡らなくなります。
すると、不足した酸素を供給するために新しい血管(新生血管)をつくる準備が開始されます。
この段階になると、霞み目などを自覚することが多いのですが、全く自覚症状が現れないケースもあります。
多くの場合、網膜光凝固術を行う必要が出てきます。
重度の糖尿病網膜症です。
新生血管が網膜や硝子体に向けて伸びてきます。
新生血管の壁が破れ、硝子体に出血することがあります。
硝子体に出血が起こると、飛蚊症を招いたり、出血量が多いと、急な視力低下をもたらしたりします。
また、増殖組織と言われる線維性の膜が現れ、これが網膜を引っ張って網膜剥離を引き起こすことがあります(牽引性網膜剥離)。
この段階では、手術を必要とするケースが多くなります。